WordPressの最近の騒動について解説【vs WP Engine】

本記事では、近ごろWordPressの周りで起きている騒動について、簡潔にまとめた。

WordPress側(主にマット氏)の対応は青マーカー、WP Engine側の対応は赤マーカーで記してある。

忙しい人向け:大体の流れ

  • Automattic(WordPress運営会社)とのライセンス契約にWP Engineが応じず頓挫
  • WordPress 創業者のマット・マレンウェッグ氏が WP Engine を痛烈批判
  • WP Engine はその批判に対して、Automatticは商標を理由差し止め命令書を発行
  • WP Engine から WordPress.org のリソースへのアクセスがブロックされる
  • Automattic社ではマット氏に賛同できない社員(全体の8.4%)が一斉退職
  • WP Engine のプラグイン「ACF」が「WordPress.org」名義のものに変更される

詳細版:これまでの経緯

そもそもの発端はライセンス契約

これは後に公表されることだが、今回の騒動の発端は WPEngine が Automattic(WordPress運営会社)とのライセンス契約に応じなかったことによるものだ。

WP Engineとは、WordPressベースのブログサービスや、「Advanced Custom Fields(ACF)」などのWordPressプラグインなどを展開している会社(運営会社名はSilver Lake)だ。

Automatticが公開した契約書によると、WordPressの商標利用を許可する代わりに「ロイヤリティ料として総収入の8%をAutomatticに支払うこと」「フォーク(ソースの改変)を禁止すること」などを求めていた

WordPressの創始者がWP Engineを痛烈批判

9月20日、アメリカで開催されたWordPressのイベント「WordCamp US 2024」にて、WordPressの創始者であるマット・マレンウェッグ氏(以下:マット氏)がWP EngineはWordPressのガンだ」と痛烈に批判するスピーチをした

マット氏は翌日(9月21日)にも WordPress.org にWP Engine is not WordPress」という記事を公開した。

マット氏の言い分を要約すると「我々と同じくらい収益を上げているのに、WP EngineはWordPressに対して何も貢献していない。WordPressの商標を無断で使ってWordPressの劣化版(※)を高額で提供しているというものだ。

※WordPressにはリビジョンという編集履歴を差分で遡れる機能があるが、WP Engineはリソースの節約のためか、リビジョンを無効にしている。

双方一歩も引かず、泥沼化

9月23日、マット氏のこれらのコメントに対し、WP Engineは差し止め命令書(Cease-and-desist letter)を出した

それに対しAutomatticも9月25日、WordPressの商標ポリシーを更新し、WP EngineがWordPressの商標権を侵害していることを非難する差し止め命令書を出した

さらに、WP Engine から WordPress.org のリソースにアクセスできない(つまりテーマやプラグインを最新版に更新できなくなる)ようにした

対してWP Engineは10月2日、Automatticとマット氏を、恐喝と職権乱用で告訴した

そのころ、Automatticでは「Alignment Offer」と称して全体の8.4%にあたる社員159名が「マット氏の方針に賛同できない」として、一斉退職した。(退職者には、早期退職金として3万ドル又は給与6ヶ月分のいずれか高い方が支払われるという。)

マット氏の一連の言動に異を唱えた開発者も、WordPressの公式Xアカウントにブロックされたり、公式Slackから排除されたりといった報告が続出している。

10月9日、WordPress.orgのログイン画面「WP Engineと無関係であること」を証明するチェックボックスが追加された

プラグイン「ACF」が WordPress.org に乗っ取られる

10月13日、WP Engineが管理していたプラグインAdvanced Custom Fields(ACF)」が WordPress.org 名義になり、名前も「Secure Custom Fields(SCF)」に変更される。

マット氏はこの対応を「セキュリティ問題を修正するための可能な限り最小限の変更を施した」としているが、ACFの開発チームはACFプラグインをマット氏に盗用された」と主張するブログを公開した。

これに対しWordPress公式Xでは「このような事態は過去にも何度か行われており、ディレクトリに参加することで同意することになるガイドラインに沿った行為だ」と反論

現在、ダッシュボードからACFをアップデートすると、自動的にSCFで切り替わる。ACFのまま使いたい場合は公式HPから手動でアップロードする必要がある。